新時代のソーサリアンを提案する

30周年を越えたソーサリアンの夢と妄想を語り続ける

こえるべきもの(冒険の書&シナリオデータ)

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はじめに

 「神剣ジャイアントスレイヤー」は、「ソーサリアン」システムのシナリオとして書かれています。シナリオは4部構成のオムニバス形式となっており、各シナリオでそれぞれのストーリーは独立していますが、最終的に全4話で完結するように構成されています。
 シナリオ3「こえるべきもの」は、その第3話です。

 王国北部、農業地域の生産量が落ち込んでいる原因は、北の洞窟で神々の召喚を研究する魔導士カディアンの召喚した絶望の女神の発する波動であることが判明。ソーサリアンは洞窟に向かいました。そこでソーサリアンは邪悪ながらも強烈なカリスマを持つカディアンと邪悪とは呼び難い弟子たちの姿を目にすることになります。

 シナリオの最後にカディアンの口から今までの事件の謎が解き明かされ、黒幕の存在が明らかになります。

プロローグ

 王国北部の農業地域では、ここ数年生産量が下降線をたどっている。これを重く見た王は調査団を派遣した。以下は、その調査団の報告書(抜粋)である。

§§§北部地方調査報告書§§§

降雨量:問題無し
日照量:問題無し
害虫量:例年と比べ、大差無し
家畜伝染病:問題無し
農業従事者:住民は悲しみにしずんでおり、覇気が感じられない。

 結論として、北部地域の不作の原因は農業従事者の精神的疾患にあると思われる。北部の農村は理由無き悲しみに包まれており、人々は労働への意欲を失っている。この原因を調査したところ、アジェール山のふもとにある洞窟から“哀しみの波動”が発せられており、これが住民に影響を及ぼしている事が判明した。

 我々はこの洞窟へ踏み込もうとしたが、洞窟は怪物と結界に護られており、調査を断念するしかなかった。

 ソーサリアンは、調査を続行すべく、洞窟に向かった。

このシナリオに旅立つパーティは3人まで

登場人物

 ここでは主な登場人物の名前・年齢・性格・シナリオ中の役割などを記します。

カディアン(年齢不詳)

 アジェールの洞窟で神々の召喚を実験する魔導士。
 神々の力の一部だけを取り出すことにより、神の力を人間の有効な道具として活用するという目的で数々の召喚を繰り返してきた。
 多数の弟子たちを従えており、彼らからは絶大な信頼を得ている。

ブラウン(31)

 カディアンの1番弟子。弟子たちの中のリーダー的存在。狂信的なカディアンの崇拝者。

シュナイダー(17)

 自らの魔法の才能により若くしてナンバー2にのぼりつめた実力者。

ナリス(29)

 カディアンの3番目の弟子。カディアンに忠誠を誓うが、女性ならではのしたたかさも持ち合わせている。

セシル(27)

 カディアンの4番目の弟子。いち早く実験の危険性を知り、カディアンに謁見を求める。

ソチ(27)

 セシルの元恋人。彼を追ってカディアンの下で働く。

グレンザー(52)

 王が派遣した宮廷魔術師。北部地域の農作物の不作を調べる調査団の団長を務める。

 他にも弟子が多数登場。

ストーリー(要約)

 ソーサリアンはアジェールの洞窟に到着した。調査団の報告どおり、洞窟の入口に立つだけで言いようのない虚無感、脱力感に襲われる。ここには調査の引継ぎの為、宮廷魔術師グレンザーが居残っていた。

「おおソーサリアン、よく来てくれました。人々の哀しみの根源はこの洞窟のどこかで発生しているようです。この奥に魔法の結界があるですが、その中に秘密があると思われます。探索中、困ったことがあったら私の所へ来て下さい。何かお役に立てるかもしれません。」

 ソーサリアンは洞窟の中に入っていった。洞窟の入口付近は暗闇の蝶、グルーム・ウィングの生息地で、うっかり物音をたてると無数の敵に囲まれてしまう。そっと歩きながらごつごつとした岩の洞窟を捜索していくと、下へと伸びている縦穴を発見した。

 穴には調査団のものと思われるはしごがかけられており、どうやらこの辺にグレンザーの言っていた結界がありそうだ。穴の底に降り立ち、横へと伸びる洞窟を進んで行く。すると突然地面が抜けた! ソーサリアンは洞窟のさらに下の階層に落ちてしまった。

 この階層にはグールが巣食っていた。グールは人肉を好む不死の怪物で、その上毒を持っており捜索がより困難になった。人骨がいたるところに転がっており、どうもこのあたりはかつて墓場だったようだ。グールを倒しながら先へ進むと他の洞窟の岩壁とは質の違う壁が立ちふさがっていた。これはガラスの原料となる石英だ。しかし鉱脈の発見を喜んでいる場合ではない。今はこの墓場から脱出しなければならないのだ。

 通気口と思われる穴を伝って何とか墓場から這い上がることはできた。しかし、先へ進むと魔法の力で固められた土の壁に行く手を遮られた。これがグレンザーが言っていた“土の結界”のようだ。

 ソーサリアンの捜査は手詰まりとなってしまった為、グレンザーに相談してみた。

「かつてこの付近には強権的な支配者が住んでいました。石英の鉱脈はその支配者の財源で、墓場はそこで労働を強いられた人々のものでしょう。“土の結界”と関係あるかどうかは判りませんが、彼らは怨念を持って死んでいったと思われます。
 もしかすると、“哀しみの波動”と何か関係があるかも知れません。この聖水で汚れを落としてください。」

 ソーサリアンは再び墓場に降り立った。グールをかわしながら墓を探るのは気持ちのいいものではなかったが、念入りな探索の結果、墓石に刻まれた文字を見つけ、聖水で清めると『水路の底に俺の魂』と読み取れた。しかし、水路などどこにも無い。

 グレンザーは言う。

「もしかすると水はすでに枯れているのかも知れませんね。水路の名残みたいなものが見つかれば良いのですが・・・。」

 水の枯れた水路・・・よく考えてみると、墓場から這い上がる狭い穴、あれは通気口だとばかり思っていたが、もしかすると水路だったのかも知れない。慎重に水路の底と思われる場所を探って行くと、床に石の蓋を見つけ、蓋をどけるとさらに下へと伸びる洞窟を発見した。その洞窟にもグールがはびこっていたが、底には水路の名残と思われる水溜りがのこっており、そのなかに古びたマトックを発見した。マトックには何か魔法的な力を感じる。もしかすると“土の結界”を破壊することができるかもしれない。

 そう直感したソーサリアンは“土の結界”に向かった。そしてマトックを結界に突き立てた・・・しかし、結界はびくともしない。

 そうか、このマトックの持ち主は石英の採掘を行う人夫だったはずだ。そして、石英の壁は結界の真下にある。この事実に気付いたソーサリアンは急いで石英の壁へ向かった。そしてマトックを壁に突きたてる。やわらかい石英はボロボロと崩れ、壁が少し沈んだようだ。“土の結界”を見に行くと魔法で固められた土が沈み、洞窟の上壁との間に隙間ができていた。

 グレンザーに魔法のラダーをもらい、ようやく“土の結界”を突破する事ができた。
 驚いた事に“土の結界”の向こうには、小奇麗に整理された居住空間が広がっていた。そして、数人の男女が黙々と作業を行っている。人々に敵意は無いようだ。しかし、どんな仕事を行っているのかは明らかにしない。さらに洞窟を奥に進んで行くと、ソーサリアンの前に人々のボスと思われる男が立ちはだかった。

「私はセシル。この洞窟で偉大なる研究を続けるカディアン様の4番目の弟子だ。侵入者というのはお前達のことだな。我々はお前達と争う気は無いし、危害を加える気も無い。“土の結界”を破った能力は評価してやろう。しかし、ここから先へ入る事はできない。早々に立ち去るのだ。」

 話のわかりそうな印象を受けた為、“哀しみの波動”について話してみるが、全く取り合おうとしない。

 しかし、とにかく諦めるわけにはいかない。先へ進むとセシルの言うとおり、“炎の結界”に行く手を阻まれた。どうしても進む事ができない為、苦し紛れにグレンザーにもらった聖水を使ってみたのがいけなかった。熱湯になった水が飛び散りダメージを負った挙げ句、結界の番人にも見つかり地下牢に落とされてしまった。

 何とか牢から脱出しなくてはならない。壁をよく調べると幸運な事に石英の地層だった。すかさず魔法の力を持つマトックを使い壁に穴をあけて牢を抜けた。

 牢屋は一つだけでなく、幾つか並んでいた中には誰もいないように思えたが、牢の一つの前を通ったとき小さな泣き声が聞こえた。よく目を凝らすと牢の奥に女性がいることが分かった。声をかけると驚いたようにこちらを向き、小さな声で話し始めた。

「私は名をソチと申します。カディアン様の下で働いているのですが・・・何か最近とても悲しくて涙が止まらないのです。
 カディアン様の側近、“4人衆”の一人ナリス様は仲間の士気が低下するとの理由で私をこのように謹慎処分にしました。・・・でも分かっているんです、私が悲しい理由は・・・。・・・私はセシルを追ってこの洞窟に来たのです。」

 ソチとセシルはかつて恋人同士だったという。セシルは植物学者でソチは動物学者だった。しかし、セシルはカディアンの強力な魔法の力に魅せられ、ソチから去っていった。だがソチはセシルが忘れられず、後を追うようにカディアンに仕えた。しかし、今や弟子のナンバー4になったセシルは自分に気付いてもくれないという。

「でも彼は一途な人で、それは昔から変わっていません。変わっていないのに彼の心に私はいない・・・だから悲しいのです。」

 ソーサリアンはグレンザーに今までの経緯を報告した。

「そうですか・・・。そのセシルという男、何とか落とせるかもしれませんな。これを持って行って下さい。この覇王樹を使って我々調査団は“哀しみの波動”を追い、ここにたどり着きました。植物学者ならこれが何を示しているか分かる筈です。」

 そう言ってグレンザーは覇王樹を手渡した。

 ソーサリアンは再びセシルに会いに行った。そして、皮袋から覇王樹を取り出した。とたんに覇王樹は小さくしぼんで行く。

「こ、これは覇王樹・・・。なぜこんなになってしまうのだ。」

 ソーサリアンは、これを使ってこの洞窟を探し当てた事を告げた。

「覇王樹は人の感情を敏感に察知する植物だ。この樹がこれだけしぼむという事は、相当な負の感情がこの洞窟に渦巻いているということか・・・。」

 セシルは少し考えた末、ソーサリアンに向かって言った。

「ようし分かった。カディアン様に会って直接話を聞こう。一緒に来るがいい。」

 セシルがパーティに加わり、早速“炎の結界”の場所へ行く事になった。

「この洞窟では、カディアン様とその研究を3重の結界で護っている。最初が“土の結界”、その次がこの“炎の結界”、そして最後が“雷の結界”だ。」

 セシルは“炎の結界”の前に立つと『蛇紋岩の腕輪』を腕から外し、結界の根元に置くと、炎が弱まり通る事ができるようになった。セシルの話では、この先の“雷の結界”は、セシルを含めたカディアンの側近“四人衆”の腕輪が全て揃わないと解除ができないと言う。そこで、3番目の弟子ナリス、2番目の弟子シュナイダー、1番弟子ブラウンに会いに行くことになった。

 洞窟を奥に進むと、3番目の弟子ナリスの部屋についた。

「あらセシル。なんだか妙な人たちを連れているのね。何か用かしら。」

 セシルはカディアンに謁見したいと申し出た。しかしナリスは取り合おうとしない。ナリスはラム酒が好物だと聞き、持って行くが、
「ブラウン様が許可を出したら私の『蛇紋岩の腕輪』の渡すわ。」
という言葉を得ただけだった。

 ブラウンは瞑想中だったので、2番目の弟子シュナイダーに会いに行った。しかしセシルとシュナイダーは組織をめぐる考え方で対立があるらしく、口論となった。話を聞く限り2人とも組織の事を真剣に考えており、悪の臭いは感じられない。結局シュナイダーは怒って部屋を出て行ってしまった。

 仕方なくナリスの部屋に戻って見ると、彼女はラム酒でえらくご機嫌だった。そしてセシルに『水晶の花』を取ってくるように言いつけた。『水晶の花』はカディアンの地下蔵にあるという。そこへ続く地下道はウッド・ゴーレムが護っており、それらを倒しながら降りていくと地下蔵の隅に『水晶の花』を見つけた。それを持ってナリスの元にいくが、ナリスは馬鹿にしたように笑った。

「そんなものいらないわ。私が欲しいのはカディアン様と同じ不老不死の力よ・・・。」

 どうもナリスの酔いが醒めるまで待つしかないようだ。

 ブラウンの瞑想が終わったかもしれないので、ブラウンの部屋に行ってみた。そこで意外な光景に出くわした。シュナイダーが縄で縛られており、ブラウンとその手下に捕らえられていたのだ。

「この私を狙うとは若造め! お前の心などはお見通しだ。瞑想したふりをしていたら、まんまと罠にかかりおった。」

「すぐに裁判を行う。罪状は反逆罪。司法権のあるナリスとセシルを呼ぶのだ。・・・いや、セシルは呼ぶ必要は無い。来たようだ。
 セシル、貴様にもここではっきりさせたい事がある。カディアン様に会おうとしているらしいが、知ってのとおり、カディアン様は今、儀式の最中だ。儀式中は何人足りとも“雷の結界”の中へは入れないのが我々の役目だろう? 貴様まさか、師に疑いを持っているのではなかろうな。今、ここで答えよ!」

 セシルは少し考えたが、静かにソーサリアンから離れた。

「すまないソーサリアン。私は裏切り者にはなれない・・・。」
「ブラウン様、疑わしい行動を取った事、お詫び致します。“四人衆”としてふさわしくない行いでした。どんな罰でも甘んじて受けます。」
「フン、よいのだ。今回はその姿勢に免じて不問とする。今後気をつけるがよい。」

 捜索は振り出しに戻ったようだ。わらにもすがる思いでソチに相談してみた。ソチはセシルを説得することを約束してくれた。

 ラム酒を手土産に牢屋の鍵をナリスから受け取り、ソチと共にブラウンの部屋へ行った。セシルの姿を見つけるとソチは、彼のそばに駆け寄った。

「セシル、私が分かる? ソチよ! この哀しみは一体何なの・・・。自分の心で考えて。私の気持ちをわかって・・・。」

 セシルはしばらく黙っていたが、ソチに背を向け話し始めた。

「ソチ・・・あなたの知っているセシルという男と私は別人だ。今の私はカディアン様の弟子以外の何物でもないのだよ・・・。」

 ソチはその場にしゃがみこみ、嗚咽した。
 そのとき、彼女の頭上に何かが浮かび上がる! それは、巨大な顔となった。

「ああああ・・・・・」

 ソチが叫んだ。
 すさまじい“哀しみの波動”を放出し、一瞬の閃光のあと、巨大な顔は消えた。
 ソチは気を失っている。ブラウンは放心状態で言葉も無い。セシルがつぶやいた。

「あれは・・・カディアン様が召喚した“絶望の女神”だ・・・。あれを制御しようなんて・・・できっこない・・・。」

 セシルは『蛇紋岩の腕輪』を差し出した。そして放心状態のブラウンからも難なく『腕輪』を取る。シュナイダーの『腕輪』は部屋にあった。ナリスは逃げ出していたが、グレンザーによって捕らえられた。ついに4つの『蛇紋岩の腕輪』を手に入れたのだ。

 “雷の結界”を突破し、洞窟の奥へと進む。ゴーレム達に護られた先に魔道士カディアンはいた。

「よくぞここまできた、ソーサリアン。私の最期を見届けるがいい。」

 死闘の末、ついにカディアンは倒れた。死ぬ寸前、彼は呪いではなく、以外にも感謝の言葉を口にした。

「ありがとう、ソーサリアンよ・・・。私は神の意思により不老不死を与えられ、数々の神や精霊を召喚してきた・・・。イリアスンに“喜びの歌”を流したのも、クリート山に“怒りの精霊”を住まわせたのも、私のした事だ。私は死ぬこともできず、苦しんでいたのだ。なぜ神がそのような事を命じたのか、私には分からない。
 ただ、分かることは、一つある。私が死ねば神は直接行動に出るだろう。・・・巨神はすでに復活しているのだ・・・。」

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