新時代のソーサリアンを提案する

30周年を越えたソーサリアンの夢と妄想を語り続ける

はじまりのゼロ SS「五稜郭炎上 - 起:旅人彷う」(デュエル編)

[1]スタート地点。とある平原、戦場に立つデュエル

デュエルの近くに次々と降ってくる砲弾。
兵士たちが混乱して右往左往する中で、将兵が必死に叫んでいる只中。

偉そうな将兵「
   なにを、どうなって……どういうことなのだ――!
   薩長の賊ばらは、戦略というものを知らぬのか!?
   本土は制圧したのだ。
   冬将軍を敵に回してまで、
   北辺の蝦夷で犠牲を増やす必要がどこにある!?」

鶴のような風貌の古風な老将「
   大鳥殿、本土を制圧したからこそだ。
   北辺で独立した蝦夷共和国などを、彼らが認めるわけがない。
   彼らにとって、<もうひとつ>の政府など、あってはならぬのだ。
   彼らは、日本を完全に統一するまで、矛を収めまい。
   ……で、どうするね、陸軍奉行殿」

陸軍奉行・大鳥圭介「
   どうするも、なにも……!
   江差が陥ちたのですぞ、中島殿!
   聞けば、彼奴らは木古内道からも侵入しているというではないか!
   木古内に兵を集結させねば、我々は孤軍となる!」

中島三郎助「撤退、ですな」

大鳥圭介「決まっておる…!
     ブ、ブリュネ中尉、あなたも兵をまとめ……
     あぁ、ブリュネ殿、なにをぼんやりしておられるか!
     ブリュネ殿!」

デュエル「……!?」

解説「大鳥が指差している先にいるのは、どうやら自分らしい。
   ブリュネとかいう中尉に間違われているようだ」

その時、敵兵が大挙して押し寄せてくる!

大鳥圭介「に、逃げ……もとい、撤退だ!
     木古内まで、全軍撤退せよ……!」

中島三郎助「……ブリュネ殿、お互いまた生きてまみえましょうぞ」

大鳥、中島をはじめ、味方の兵士が画面の外へ走り出る。

解説「状況はわからないが、まずは己の安全を確保するのが優先だろう。
   敵兵を斃しながら、大鳥や中島が向かった方角へ急ごう」

敵兵との戦闘開始。
戦闘そのものは必須ではないが、一定数を斃さなければ、どんどん敵が増えてきて、追いつめられてしまうので注意。ただし、戦いに専念しすぎても、仲間の兵士が減り、加えて、武器の損耗が激しくなるため、程よく逃げつつ、程よく戦うバランスが重要。

一定の距離を逃げ延びると、画面フェードアウト。

[2]逃げ延びた旧幕府軍陣営(木古内の夜)

森々とした林の一角に、そちこちに負傷した兵士たちが倒れている。

解説「どうやら夜になって、敵の追撃も止んだようだ。
   しかし、<仲間>(なのだろうか)の損害は甚大であるようだ。
   ゴルカスやクリスティの姿も見当たらぬようだし、
   まずは、己の置かれた状況を把握した方が良さそうだ」

周囲の将兵に話しかけていく。

大鳥圭介「おぉ、ブリュネ中尉、無事であられたようでなによりだ。
     本日の戦では不覚にも
     薩長の賊ばらに後れをとってしまいましたが、
     木古内には、我らが伝習隊や額兵隊も駆けつけてくれた様子。
     明日は、松前江差の奪還といきますかな、わっはっは」

陣の周辺に配置された板塀を確認してまわる老将。

中島三郎助「このようなもの、砲弾の前には意味はないと申されるか。
      さもありなん。
      なれど、これが拙者の儀式なのでな。
      老人の奇行と思され、大目に見ていただければ助かる」

中島三郎助「……大鳥殿は、松前江差を奪還すると?
      …
      ……
      ………
      ん、不満な色が見えたのであれば、不徳の致すところ。
      老人に、今更なんの不満があろうものかね」

伝習隊士I「ブリュネ中尉、ご無事でなによりでございます」

伝習隊士II「大鳥さまは、優れた将であられる。
      政略にも戦略に富んだお方と言えよう。
      大砲の弾が飛び交う前線にさえ、出てこられねばな」

伝習隊士III「せめて、土方先生がおられれば……」

伝習隊士IV「函館政権は、この国の最後の良心なのです。
      謀略と暗殺でこの世を築いた薩長の姦夫どもが
      正義であるならば、正義とは何だというのか」

額兵隊士I「五稜郭の榎本総裁は、今の状況をどのようにお考えなのか。
      噂では、五稜郭に残った首脳の間では、
      既に、降伏の決定がなされているとか……」

額兵隊士II「みなは土方先生を軍神と崇める。
      しかし、あの人は函館を死に場所と決めているのではないか。
      俺は、まだ死にたくはない」

額兵隊士III「榎本さんも大鳥さんも、所詮は政略の人なのだ。
      前線に出てきても役に立たぬ大鳥さんと、
      ここに至って、五稜郭で連日会議を開いている榎本さんと、
      いずれがマシというのだろうか」

額兵隊士IV「大鳥さんは、なにを考えておられるのか。
      松前では敵前逃亡した人が、
      援軍を得た途端に再戦とはちゃんちゃらおかしい。
      松前が陥ちた以上、函館に兵を集結させるべきなのだ」

遊撃隊兵士I「我われは命など惜しくはない。
       ただ、逆賊の汚名を着たままでは死んでも死にきれぬ」

遊撃隊兵士II「俺は、鳥羽伏見から幕府の側で戦ってきた。
       大阪へ逃れ、江戸に落ち、奥州に追われ……
       函館の最果てまでくれば、もう十分ではないかね」

遊撃隊兵士III「ブリュネ中尉、異国の戦に義を以て参戦くださる
       あなた方フランス士官に敬意を表します」

遊撃隊兵士IV「榎本総裁は五稜郭に籠って、兵の前に姿すら現さぬ。
       武のお人ではないとはいえ、
       あのようなお方ではなかったのだが」

遊撃隊兵士V「薩長は幕府から将軍の地位を奪い、土地までも召し上げた。
       それも、すべてを謀略によってだ。
       俺には、そんな奴らに錦の御旗を奉る
       帝のお気持ちが理解できぬ」

焚火を前に、談笑している将兵(隻腕の伊庭八郎、瀟洒ななりの星恂太郎)

額兵隊隊長・星恂太郎「
   大鳥殿も、いい気なものだな。
   将が蒼褪めるよりは、よほどマシだがね。
   だが、程度というものがある。
   江差松前など、薩長にくれてやれば良い。
   どうせ、我らで掌握しきれぬのであればな」

遊撃隊隊長・伊庭八郎「
   そうもいかぬのだろう。士気というものがある」

星恂太郎「士気?大鳥殿の嫉妬ではないのかね?
     大鳥殿が土方を面白く思っておらぬのは周知。
     ここで陸軍奉行として、
     地位に相応しい手柄を立てておきたいということだろう。
     軍神を目標にするのは悪いことではないがね、
     老人も、坊(ぼん)のお守りとなれば大変ではないか」

伊庭八郎「老人とは酷い。中島殿は48だったか」

星恂太郎「老人は老人さ。砲弾飛び交う戦で、鉄砲もあるまい。
     お召しの陣羽織もいったい何時のものやら」

伊庭八郎「しかし、中島殿の補佐で我が軍はなんとか持っている」

星恂太郎「だな。

     それよりも、この戦だ。
     江差の奪還などに拘らず、最初から木古内に兵を集めておればな。
     やはり陸軍は、鬼の土方がおらねば、烏合の衆かよ」

伊庭八郎「それでは、あまりに不甲斐ないというものだが」

星恂太郎「同感だ」

陣地の端に負傷して倒れている兵士を調べると……

兵士I「(返事がない。ただの屍のようだ)」

兵士II「(返事がない。ただの屍のようだ)」

兵士III「(返事がない。ただの屍……ではない!
    目をカッと見開いて、裾を掴んでくるではないか。
    しかし、その手は屍そのままに冷たく氷のようだ)」

兵士III「フォフォフォ……儂じゃ、儂じゃよ」

解説「その諧謔に満ちたしわがれた嗤いには、聞き覚えがある。
   霧の中の老人……」

エティス「エティスじゃよ」

エティス「儂ほどの魔導士であろうとも、念話だけでは疲れるでのぅ。
     とりあえず口を借りるだけであれば、屍でも問題はあるまいて。
     なに、気味が悪いとな?
     なんの、つい数刻も前までは主らと同じ側にいた者ぞ。
     精神体があるかなきかで、大差はあるまいに。
     しっかりせい」

エティス「それよりも、畏れるべきは、この地の<魔>の瘴気よ。
     <魔>――<混沌>の尖兵を自ら担った者ども。
     <混沌>の遣いを気取り、世の破滅を望むと信じ、
     その実体は、<混沌>に心を奪われた傀儡の者たちよ。

     彼奴らが何を求めて、この地に蔓延るかは知らぬ。
     ただ、主らがこの世界を抜けんとするならば、
     自ずと<魔>に対峙することになろうて。
     両者の求めるものが世界の要(かなめ)、
     世界を維持し、世界を繋ぐ鍵である限り、
     それは避けられぬ運命(さだめ)……といったところかの」

エティス「なに、仲間たちの居場所を知らぬか、とな。
     フォフォ……
     知っておるといえば知っておるし、知らぬといえば知らぬ。
     なに、怒るな、怒るな。
     嬲っておるのではない。
     儂とて、神ならざる、ただの爺よ。
     魔導には、聊か長けてはおるがの。
     主らという灯を便(よすが)に、<世界の断片>を
     伝い渡るのみの……おやおや、いつの間にやら
     儂の方が<彷徨い人>になったようではないか。

     とまれ、儂が知っておるのは、
     彼らが今何処かに<ある>ということだけよ。
     北かもしれぬし、南かもしれぬ、
     宇宙(そら)かもしれぬし、地の奥底やもしれぬ、
     未来かもしれぬし、過去かもしれぬ。
     じゃが、彼らは確かにそこにある。それだけじゃ。

     なに、主らの目的が同じである限り、正しい選択をする限り、
     彼らとは自ずと相まみえることになろうよ。
     それが、主らが言うところの<絆>というものではないのかね」

デュエル「エティス……!」

兵士V「(返事がない。ただの屍……に戻ったようだ)」

解説「夜が、明けようとしている」

[3]木古内防衛線

再び白兵戦のただ中。大鳥たちが逃げてくる。

解説「翌朝、木古内防衛線」

大鳥圭介「ひけ、退け!撤退だ……!
     どうしたのか、ですと!?
     まったく、まったくけしからん!
     ありうべからざることです!」

星恂太郎「イギリスが中立の約定を反故にしたのだよ。
     イギリス艦で、新政府軍2000が松前上陸したらしいな。
     元々薩長に肩入れしていた彼らのこと、
     想像できぬ展開ではないがね」

伝習隊士I「たすけ、助けて……!」

伝習隊士II「こうなる前に撤退していれば、逃げ切れたろうに……
      彼我の戦力がここまで離れていては、総員の撤退は難しい……」

伝習隊士III「もはや本陣も危険です……!」

大鳥圭介「えい、なにをしている、中島殿!
     我ら首脳部が陥ちては、あとがない。
     退路を塞がれる前に、撤退!撤退、撤退だ!」

中島三郎助「大鳥殿、いま少し。
      いま少しのご猶予を。
      まだ我が軍の大半は、前線で敵と刀を交えておる状況。
      ここで本陣が撤収したとあれば、彼らが――」

大鳥圭介「それがどうしたか!
     拙者は、五稜郭への報告を急がねばならぬのだ!
     中島殿は、函館の対応が遅れ、
     蝦夷共和国そのものを危うくするがお望みか!?」

中島三郎助「………」

大鳥圭介「なれど。
     …確かに、潰走というわけにもいかぬな。
     ……うむ。
     では、中島殿、そして、ブリュネ殿、
     殿(しんがり)を命ずるゆえ、
     我が軍の兵士たちを収容しながら、後退されたい。
     良いかな」

中島三郎助「承知仕った」

解説「了解しますか?」

▲[はい]を選択した場合

大鳥「おぉ、流石はブリュネ中尉、宜しくお願いしますぞ!」

▲[いいえ]を選択した場合

大鳥「ブリュネ殿、これは陸軍奉行としての命令にござる。
   フランス士官と雖も、この場では、拙者の指揮に従って戴きたい」

いずれの場合も、言い捨てるや、大鳥、星はそのまま逃亡。
中島が残って、デュエル共々、敵兵との戦闘開始。

中島三郎助「……なんということはない、一兵でも多く、救うのみ」

解説「<中島三郎助>が仲間になった。
   まだ撤退しきれていない兵士が残っているようだ。
   彼らが離脱するまで、この場を離れることはできない」

エティス「お人よしじゃのぅ…」

解説「嗤いを含んだ風が通り過ぎたような気がするが、
   気にしている暇はない。
   とにかく敵の数が多いのだ。
   なるべく後方に回り込んで、一撃で斃すことを心がけろ!」

以降、一定時間、その場で敵兵を斃し続けなければならない。
ただし、武器の損耗をおさえるため、できるだけ相手の弱点を突きながら
倒していくこと。手持ちの武器が破損した場合はGame Over。
一定時間が経過すると……

味方の兵士「ブリュネ中尉、中島さま、これ以上は無理です!
      離脱してください!」

と同時に、敵兵が雲霞のように押し寄せる。

解説「あの軍勢に巻き込まれたら、ひとたまりもないぞ!」

逃亡開始。
以降、地形トラップを抜けながら、一気に走り抜けること。
軍勢(黒い塊)に追いつかれたら、即座にGame Over。

◆雑木林
「紅玉の謎」のような上下アップダウンのあるステージ。
茂みや木の洞に抜け道が用意されていたり、毒槍の罠があったりするので、
道を見極めながら進んでいく必要がある。

◆川
急流がスピード感あるステージ(斜め上視点で手前/奥への移動も可能)。
小舟が用意されているので乗ると、自動的に進んでいく。

解説「<びぃた>を左右に傾けると、船の速度を調整できるし、
   上下に傾けると、手前/奥に移動できるぞ。
   落下する砲弾や、渦巻きを避けながら進んでいこう。
   船は一定のダメージを受けると、壊れてしまうぞ」

敵兵が船の上に乗って攻撃を仕掛けてくるので、適宜倒していくこと。
川の最後は滝になっているので、落ちる前に手前の岩棚に飛びつく必要がある。

◆山岳地帯(断崖絶壁)
縦スクロールのステージ。ジャンプを繰り返して岩棚を飛び移りながら、
上に登っていく。岩棚の一部には、逆さつららもあり、落下すると大ダメージ。時折、砲弾が落下してくるので要注意。

[4]函館・五稜郭

以上のステージを抜けると、場面変わって五稜郭内部。

解説「函館・五稜郭。本陣」

デュエル(ブリュネ)を出迎える大鳥。

大鳥圭介「おぉおぉ、ブリュネ中尉、無事で僥倖でござった。
     それにしても、
     許すまじは中立の約定を破ったイギリスめですな!
     義に篤いあなた方フランス士官の、
     爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものでござる。

     中島殿も、ご苦労でござった。
     戦地では厳しいことも申したが、
     決して含むところがあってのことではございませぬでな」

中島三郎助「無論、承知しております」

解説「<中島三郎助>が仲間から外れた」

中島はそのまま去っていく。
星恂太郎の部屋
星恂太郎「なにが、他意がないだか。
     大鳥殿は、彼のお目付け役のご老人が煙たいのさ。
     いっそ死んでくれれば、とでも思っていたのではないか。
     同じく働くのであれば、上司には恵まれたいものだが……

     榎本総裁も、総裁になって以降、
     五稜郭の椅子に座ってばかりで何を考えているのか。
     ブリュネ中尉、軍事顧問として、
     貴官はなにか聞いておらぬのかね」
伊庭八郎の部屋
伊庭八郎「ブリュネ中尉、ご無事でなによりだ。
     中島殿をお守りいただいて、感謝する。
     土方さんがおらぬいま、中島殿が我が軍の要なのだ」
五稜郭第一区画
老兵士「敗れたのは、南の木古内だけではない。
    西の二股口からも、我が軍が撤退してきたそうじゃ。
    いよいよ函館市街戦になるのかのぅ」

兵士I「一応、函館市街地は非戦地域ということで約定しているが…
    謀略の徒たる薩長が、それをどれだけ守るものか」

兵士II「いよいよ我が軍も、脱走組が増えているらしい。
    上の連中も見て見ぬふりをしているらしいが……」

兵士III「フランスの兵隊さんが、
    こんな異国の地であたら命を落とすこともあるめぇ。
    おいら、今夜にも北に逃げるんだが、あんたも一緒に来るかね?」

兵士IV「木古内薩長の手に陥ちた以上、
    函館を維持する兵力は我が軍にはないはずなのだ。
    この期に及んで、五稜郭に籠城して何をしようというのか」

兵士V「脱走するんなら、気を付けた方がいいぜ。
    脱走者は見逃されているという噂もあるが、
    どうにも函館から外に出た形跡がねぇ。
    内部の情報を漏らさぬよう、密かに殺してるってぇ、
    俺は睨んでいるぜ」

アイヌ兵士「アイヌの地、俺たちが守る。
      榎本、俺たちの土地を保証する、言った」

フランス兵士「ブリュネ中尉、ご無事でなによりです。
      松前の戦で中尉が敵陣に向かった時には、もう今生の別れかと。
      生きて、フランスに帰りましょう!」
ブリュネ中尉の私室

部屋の中には誰もいない。

解説「ここがブリュネ中尉と呼ばれていた者の部屋らしい。
   机の上には、幼い女の子の写真が飾られている。
   『レーシャ』と書かれている。
   ブリュネ中尉の娘、だろうか?」
中島三郎助の部屋

陣羽織を羽織った老人と、少年/青年兵。

中島三郎助「ブリュネ中尉、大鳥殿をあまり責めんでやってほしい。
      あの御仁も、将器はお持ちなのだ。
      伊達に、江戸以降、陸軍を率いてきたわけではない。
      ただ、絶対的な経験が足りぬ。
      儂らがそこを盛り立てずして、どうするね」

中島英次郎「父上は、あれでなかなかの開明派なのですよ。
      国際事情にも通じておられ、
      そうそう、かの黒船に最初に乗船し、
      ペリーと相対したのも父上で……」

中島恒太郎「やめぬか、英次郎。
      身内自慢は、傍で聴いても見苦しい。
      ……申し訳ございませぬ、ブリュネ中尉。
      弟は、自慢の父がさも時代遅れの侍のごとく
      軽視されているのが許せぬのです」

中島三郎助「侍が時代遅れならば……それで良い。
      しかし、開国して西洋文明を取り入れ、
      武士の魂までも西洋に染まってしまえば、
      我が国に何が残るというのか」
新撰組隊士・島田魁の部屋

巨漢の隊士と、子供子供した隊士が、部屋の真ん中で鍋を囲んでいる。

市村鉄之助「こんなにも早く、陸軍が敗けてしまうなんて……!
   土方先生がおられれば、こんな……
   僕は、僕は……悔しいです!」

島田魁「まあ、そういうなて。
    大鳥さんは頑張った。
    我が軍は敗けたが、まだ完全に敗けたわけでない。
    それでええんでないか?」

市村鉄之助「でも、でも……」

島田魁「まあ、いさ。それ、汁粉、食うかね。
    ほれ、ブリュネ中尉さ、あんたにも一杯」

市村鉄之助「島田さん……この汁粉、甘すぎますよ……
   砂糖、どれだけ入れてるんですか……糸、ひいてますよ……」

島田魁「これがいいんでないか。糖分取って、お前も力さつけんかい」

市村鉄之助「……土方先生、早く帰ってこないかなぁ……」
図書室

図書室の中では、一人の外国人が本棚の前で調べものをしている。

外国人「私は、カイネル=ドゥ=ラファティと申します。
    日本は、幾千年もの古から、あまたの不思議が宿る神話の国。
    私は、この国に脈々と語り継がれる不思議を追って、
    巡礼の旅を続けているのです」

カイネル「五稜郭――五芒の城塞がそのような形として建築されたのは、
     なぜでしょう。
     もともとは、イタリア稜堡式建築を採用している
     というのが定説です。
     しかし、それにしては半月堡が一箇所しか建築されていない、
     居住施設と軍事施設が分離されていないなど、
     理に適わない点が、あまりに多すぎるのです。
     五稜郭には、別の目的があったのではないでしょうか。
     私には、そう思えてなりません」
榎本武揚の部屋

部屋の前には番兵が立っている。

番兵「榎本総裁は、現在執務中であらせられます」

部屋に入れない。

[5]五稜郭入口付近

(発生条件)すべての人物と話していること

入り口付近で、大鳥とその部下、襤褸切れを顔に巻いた侍が言い争いをしている。

解説「入り口付近で、何人かが集まって、騒いでいるようだ」

背後から、星恂太郎と伊庭八郎が近づいてくる。

星恂太郎「揉めているようだな。
     ……ん、ブリュネ中尉は、まだご存じでないか。
     あれは、山口五郎とかいう新入りでしてな、
     陥落した会津から、薩長の追っ手を振り切って、
     我らに合流したのですよ。
     酷い火傷跡があるとかで、いつもあの通り、
     顔に包帯を巻いている、なんとも怪しげな奴ですが……
     あれで剣の腕は立つ。
     あるいは、俺よりも……」

伊庭八郎「……ではないだろう。
     明らかに奴が上だ。
     でなければ、如何に人手不足とは言え、
     あんな怪しげな男を一隊を預けるものかね」

星恂太郎「とはいえ、だな。
     今度ばかりは、俺も大鳥殿に同感だ。
     ……なに、五稜郭の防衛を放って、
     薩長の鼻先を止めたまではいい。
     奴のおかげで、我らは助かったようなものだしな。
     だが、虜囚をその場で斬首したというのはいただけない」

伊庭八郎「奴は、言ったそうだよ。
     <首を斬ったのではない。降伏の虫を斬ったのだ>とな」

星恂太郎「榎本総裁が、既に降伏を決めているという噂もあるからな。
     だが、虎の怒りを招いてどうするね。
     薩長も目の前に仲間の首を並べられては、退くものも退けまい。
     降伏は俺も好かんが、わざわざ己の選択肢を狭めることもない。
     大鳥殿が怒るのもごもっともだろう」

伊庭八郎「同感だ。
     おぉ、とりあえずは諍いも終わったようだぞ」

山口五郎と名乗る侍は、そのまま五稜郭の奥へと消えていく。

解説「山口の目がこちらを見たような気がした。
   鋭い……だけではない、殺気を孕んでいるように見えたのは
   気のせいだろうか」

大鳥圭介に近づくと、

大鳥圭介「まったく……まったく……なんという……
     おぉ、ブリュネ中尉か、いやなに、心配することはない。
     こちらの問題だ。

     おぉ、そうだ、榎本さんもブリュネ中尉には感謝の言を
     伝えたいとのこと。総裁の部屋に行かれるが良い」

[6]榎本武揚の部屋

(発生条件)大鳥から部屋に行くように言われていること

榎本の部屋に入ると、奥には、お洒落に口髭を生やした紳士が立っている。

榎本武揚「おぉ、ブリュネ中尉か、この度はご苦労だったね。
     まぁまぁ、掛けたまえ。
     紅茶でも一杯いかがかな。
     さて、あなたは珈琲派だったか。

     なに、それどころではないと?
     失礼ながら、フランス人は優雅典雅のお国がら。
     我が国の者ほどには勤勉ではないと思っていたが……

     新政府軍が函館に迫っている、と?
     無論、無論、わかっているとも。
     だが、それがなんだというのだね?
     函館市街地は、国際的にも認められた非戦地域。
     我らは、市民の壁によって守られているのだよ」

榎本武揚「我らが共和国では、民草の一人までが平等にして、
     政体を構成する一員なのだ。
     それは、自ずと国を守る責任が民草の一人一人に
     課せられることを意味するのだよ。

     もしも、新政府軍が非戦条約を破ったら、と?
     かような時は、それこそ国際法に則って、薩長の賊ばらを
     米仏の軍でもって成敗すれば良いのではないのかね?
     それに、五稜郭には……」

解説「その時、凍てつく風が室内を吹き抜け、榎本の言葉を打ち消した」

榎本「さあ、ブリュネ中尉、お茶が冷めてしまう。
   乾杯と行こうではないか、我が蝦夷共和国に……!」

以上、デュエル編&[起]旅人彷う(完)

→SS「五稜郭炎上 - 承:函館燃ゆ」(クリスティ編)へ