新時代のソーサリアンを提案する

30周年を越えたソーサリアンの夢と妄想を語り続ける

はじまりのゼロ SS「五稜郭炎上 - 起:旅人彷う」(クリスティ編)

[1]スタート地点。見知らぬ船内で目覚めるクリスティ

 部屋の隅には、若い侍が立っている。話しかけると…

侍「あぁ、目が覚めたんだね。
  早速だけど、君にいい知らせと、悪い知らせがある。
  聞きたいかい?
  うん、聞きたいだろう。
  まず、いい知らせは、
  波間に漂っていた君を、僕たちの船が引き上げて
  君は九死に一生を得たということだ。
  そして悪い知らせは…
  …
  ……
  ………この船は、今から死ににいくものの集まりだということさ。
  …なんだ、面白くなかったかい?
  残念だなぁ」

侍「そうそう、船の中は自由に歩き回っても構わないと思うよ。
  艦長や、土方さんには、救ってもらったお礼くらいは言っておいたら?
  あぁ、土方さんてのは、僕が一番好きな上役さ。
  パッと見、陰気で取っつきにくいけど、悪い人じゃあない」

以降、画面を切り替えると、侍は立ち去っており、姿はない。

[2]船内探索前半

 部屋を出て、船内の人との会話

船長室
甲賀「…
   ……
   ………」

矢作「こちらが<回天丸>の艦長、甲賀源吾閣下だ。
   別に不機嫌なわけではなく、寡黙なだけだから許してくれ、
   …と艦長は、すまなそうに言っておられる。
   そして、私は、副艦長、かつ、艦長通訳の矢作沖麿。
   この艦で過ごす上で判らぬことがあれば、私に聞いてほしい。
   …あ、これは私の言葉だからな」

矢作「まずは、目が覚めてなによりだ。
   なに、他に漂流してた人間はいなかったかって?
   ふむ、気の毒だが、他の漂流者の報告は聞いていないな。
   …え、艦長、なんですか?
   うむ、気を落とさぬように、
   と艦長が哀しげに言っておられる」

甲賀「…
   ……
   ………」
海軍奉行の部屋
荒井「あぁ、君は…漂流していた人だね。
   あぁ、その、まずは元気になってよかった。
   ん、私かね。
   私は、海軍奉行の荒井郁之介。
   本作戦の最高指揮官…ということになってるんだが、
   甲賀くんも土方くんも、優秀な人材でね。
   私はそう…君たちの言葉で言うところの
   <おぶざばぁ>というところかね。
   お飾りの、指揮官だよ」

荒井「ふむ、上陸したいというのかね。
   気持ちはわかるが、その希望に沿うことはできないのだ。
   これは機密事項、なのだが…
   ……
   ………ふむ、なにも知らずに巻き込まれるのも気の毒ではある。
   それに君は、当面、この船から出ることはできないし、
   機密を漏らしても、君が機密を漏らせなければ、
   機密を漏らすことにはなるまいな。
   しかし待て、私は責任ある立場として、機密を漏らすべきではない」

荒井「…ということで、私は今から独り言を言う。
   君が聞いていたことを私は知らないし、聞くも聞かぬも君の勝手だ。
   盗み聞いた君のことを、私は関知しない。
   いいかな?
   いやいや、これも独り言だから返事は要らない」

荒井「ひとつ、我が函館軍の目的は、新政府軍の
   新造艦<ストーンウォール>、甲鉄艦の奪取。
   ひとつ、彼の新造艦を我が<回天丸>と友艦<蟠竜丸><高雄丸>
   で奪取できれば、津軽海峡制海権も取り戻せよう。
   死に体の旧幕軍にとって、この作戦が最後の頼み綱なのだ。
   うむ、独り言にしては長すぎたかね。
   いやいや、返事は要らぬよ」
兵士たちの部屋
新撰組隊士I「斬り捨てる、船をぶつける、乗り移る…
       いや、船をぶつける、乗り移る、斬り捨てる、だったか…
       ブツブツ…」

新撰組隊士II「海の上で漂流している人間がたまたま見つかるなんて、
       戯曲の世界だけだと思ってたんだがなぁ」

新撰組隊士III「え、あんたの部屋にいた和服の侍だって?
       そんな奴、この船にいたかなぁ…
       だって、見ろよ、俺たちの軍装は
       フランス式の洋装が基本なんだぜ」

彰義隊士I「今回の作戦は、回天、蟠竜、高雄の三艦による、いわば
      我が海軍にとっての総力戦。
      いや、陸軍奉行並の土方先生や、我ら彰義隊新選組が
      乗り込んでいることを思えば、我が軍にとっての総力戦。
      この戦で<ストーンウォール>を奪取できれば、
      一気に戦況は逆転できるのだ」

彰義隊士II「薩長の賊ばらが官軍であるものか。
      正義は我らにあり。
      なれば、その正義の軍が敗けることがあろうか」

彰義隊士III「<ストーンウォール>はまだか!
      海の上で、しかも奇襲というのは不本意なれど、
      彼奴らを斬って捨てられるならば、致し方あるまい」

神木隊士I「威勢の良いことを仰っている方もいますが、
      本当はみんな不安なのです。
      この戦いに勝てると思っている者など、
      独りでもいるのでしょうか」

神木隊士II「<ストーンウォール>は、この時代、最強とも謳われる軍艦。
      おそらく、この回天の砲弾では傷一つ付けることはできまい。
      接舷して、最初の五分、最初の五分だ。
      そこで主要な部署を占拠できなければ…我々は全員、死ぬ」
副官たちの部屋
野村利三郎「このところ、土方先生のご様子がおかしいのだ。
      <ストーンウォール>奪取作戦を提案したのは、
      先生であるはず。
      しかし、なんというか、勝たんとする気魄が見えぬ。
      いや、そうではないか。
      土方先生は、あるいは、
      死に場所を求めておいでなのやもしれぬ」

相馬主計「土方先生は、函館港を出港してから、自室に籠って出てこられぬ。
     本作戦成否の重責を担っておられるゆえ、致し方ないとは
     思うが、食事もろくに召し上がっておられぬとなれば、
     我ら隊士としては放ってもおけぬ」

相馬「なに、様子は見ているのか、だと?
   無論、我われとて気にはしておる。
   なれど、扉を開いてくださらぬのでは、致し方あるまい」

相馬「そうだ、お主、すまぬが、ひとつ頼まれてはくれぬか。
   助けてもらった礼でも、乗船の挨拶でもかまわぬ。
   本作戦に関係ない者であれば、あるいは、
   土方先生も心安く、話をできるかもしれぬ」

相馬「頼むぞ」

ニコール「私は、元・フランス海軍のニコール。
     我がフランスと幕府とは、大政奉還以前からの深い絆で
     結ばれています。我が国としては中立が建前ですが、
     私のように何人かの有志は
     こうして幕府軍に参陣しているのですよ」

ニコール「函館に残してきたエレイアは、元気にしているだろうか」
飯炊き場
老人「ここは飯炊き場でさぁ。
   もっとも、死にゆく人たちに出す飯は、生きるための飯じゃねぇ。
   死ぬまで永らえるための飯でしてな。
   だから、飯を炊くのも、
   こんな棺桶に足突っ込んだ爺でいいってわけでさ」
土方の部屋

扉を調べると…

▲1回目
解説「扉を叩いて、呼びかけてみたが、返事がない」

▲2回目
解説「そもそも厭な気配のする部屋だ。扉がひんやりとする」

▲3回目
解説「あたりの温度がますます下がっていくようだ。
   いったん、引き返した方が良いだろうか」

[3]船内探索後半

(発生条件)すべての人間と会話を終えていること

副官たちの部屋
相馬「やはり扉を開いてはくれなんだか…
   お主にはすまぬが、飯炊き場から夕餉を持って、いま一度、
   部屋に行ってみてはくれぬか。
   私も行きたいのだが、副官というのは、どうにも忙しくてな」

野村「相馬の奴め、お主に土方先生を押し付けおったか。
   なに、奴が忙しくなどあろうものか。
   ただ、気味が悪いのだ。
   土方先生の部屋に立ち込める瘴気のようなものが、
   俺たち死線を潜ってきたものには恐ろしゅうてならぬ。
   俺はどうか、だと?
   俺も御免さね。
   俺は野村のように忙しい振りなぞせぬ。
   主に任せた」
飯炊き場
老人「へぇ、土方先生の夕餉をと。
   それは構いませんが…
   ……
   ………
   …………そんなことをしている暇があるのかのぅ…」

クリスティ「……!?」

解説「嗤いと諧謔を含んだその声には、聞き覚えがあるような気がする」

老人「なんと薄情なことよ。
   霧の中で主らを救うた爺など、記憶に残してもおらぬかね。
   まあ、良いわさ、良いわさ。
   主も仲間と逸れて、それどころではなかったろうでな」

クリスティ「エ、エティス…?」

エティス「そうじゃ、エティスじゃよ。
     主の連れは、もう少し早く気づいてくれたがのぅ…
     ん、彼奴らに会うたのかとな?
     うむ、会うた。
     このような時間も空間も絡み合った世界で、
     過去形で申すのが正しいかどうかはわからぬがな。
     儂の記憶では、先ほど会ってきたことになっておる」

エティス「親切ついでに加えるならば、無事じゃよ。
     儂と会うてより後のことは知らぬがの。
     なに、相変わらず底意地が悪いと申すか。
     まぁまぁ、そう言うてくれるな。
     実際、儂とて数刻の後に無事であるとは言い切れぬ。
     魔導士というものは、常に客観的な事実だけを把握するよう
     教え込まれている生き物じゃて。
     それが意地が悪いというのであれば、
     魔導士は意地が悪いものなのじゃよ」

エティス「さて、無駄話も魔導士の美徳ではないゆえな、本題に移ろうぞ。
     この船は尋常ならざる<気>に塗れておる、
     主も感じておるようにな。
     否、<船は>ではないか。
     この世界そのものが、触手のように拡がった<気>によって
     握りつぶされ、歪んだ世界はそちこちで軋みと悲鳴をあげておる。
     <気>、即ち、<魔>じゃよ」

エティス「世界征服…?
     彼奴らの望みは、そのようなものではないよ。
     征服せんとするのは、世界を自ら建設せんとする者の仕業。
     なれど、彼奴らの望みは破滅のみ。
     世界という創造の成果物を
     混沌に帰すこと以外に関心があろうものか。
     主らがこの世界を抜けられるとすれば、
     この世界を蝕む<魔>と対峙することじゃ。
     <魔>はこの世界を支える要を目指しておるはずじゃでな。
     おそらく<魔>と対峙することはそのまま、
     主らの目的――この世界を抜けることにも繋がろうよ」

エティス「おや、どうしたら<魔>と対峙できるか、じゃと?
     フォフォフォ、主はなかなかに胆力に優れておるようじゃ。
     他の2人は腰が引けておったでな。
     その胆力に免じて、ひとつ良いものをくれてやろうかの」

解説「<五元素のマント>を貰った」

エティス「<五元素のマント>と言ってな、地、火、水、風、霊――
     この世を構成する五元素の力を、
     一時的にわがものにできる力を持つ。
     そのままでは、なんら役には立たぬぞ。
     力を得るには、<魔>の眷属を屠ることじゃ。
     彼奴らは、いわば特定の元素に極端に依存することで力を得た、
     その代わりに生としてはバランスを欠いた存在。
     翻って見れば、元素のかたまりとも言えよう。
     彼奴らを屠ることで、
     最後に取り込んだ元素の力を持ち主に与えてくれるようじゃ。
     別な元素を取り込んだら、
     一度取り込んだ元素も改めて取り込まねばならぬ。
     取り込んだ元素によって得られる力はさまざまのようじゃから、
     試行錯誤していくしかないの」

エティス「さて、長話がすぎたようじゃの、そろそろ行くかね。
     わからぬことがあったら、またここに来るがよいよ。
     儂は、しばらくはここにおるでな」

[7]嵐のはじまり

(発生条件)エティスとの会話を済ませていること

 飯炊き場から出ていくと、船が大きく揺れ始める。

解説「船の揺れが激しくなっているようだ。
   冬の嵐が、やってきたのだ」

クリスティ「……!」

船に更に大きな衝撃が加わる。

誰かの声I「船が…!船が岩礁に乗り上げたぞ!」

誰かの声II「船底は、船底は大丈夫なのか!
      浸水の状況を知らせよ…!」

誰かの声III「<蟠竜丸>、<高雄丸>に知らせるのだ!」

誰かの声IV「<蟠竜丸>も<高雄丸>も見えません…!」

誰かの声III「沈んだのか…!?」

誰かの声IV「わかりません!とにかく…う、うわぁ!」

誰かの声V「水だ!…水が流れているぞ…!」

誰かの声I「な、なんだ、こいつらは…!?」

その時、クリスティの周辺(船の天井、壁、床)からスペンドデビル、
ウッドゴーレムなどの魔性がにじみ出るように現れる。
戦闘開始!

クリスティが最初の一体に斬りつけたところで……
以上、クリスティ編(完)

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