新時代のソーサリアンを提案する

30周年を越えたソーサリアンの夢と妄想を語り続ける

喜びの歌(冒険の書&シナリオデータ)

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はじめに

 「神剣ジャイアントスレイヤー」は、「ソーサリアン」システムのシナリオとして書かれています。シナリオは4部構成のオムニバス形式となっており、各シナリオでそれぞれのストーリーは独立していますが、最終的に全4話で完結するように構成されています。

 シナリオ1「喜びの歌」は、その第1話です。

 国内随一の教育都市イリアスンを舞台に、ソーサリアンは子供たちの失踪事件の捜査にあたります。

 調べを進めていくにつれ、子供たちの喜びに暗い影があるのを感じ、人の本当の喜びとは何か、を考えさせられることになります。

 少年の身を借りた巨人チッタが狂言まわし的存在で登場し、このシリーズの方向性をほのめかします。

プロローグ

 城砦都市イリアスンは国防の要であると共に、国内随一の教育都市でもあった。全国から集まった子供たちはここで武器や魔法の基礎訓練を受け、国の将来の担い手として育てられていた。市民の教育に対する意識は総じて高く、国からの豊富な資金援助もあり、教育の場として理想的な環境となっていた。実際ここから国軍士官、兵士、宮廷魔術師、官僚などさまざまな要職に人材を輩出しており、また中には冒険者の道を志願するものもいた。

 ある日、この都市の執政官ディアルド公爵から、ペンタウァ国王へ陳情があった。

 その内容は抽象的なもので、とにかくすぐに腕利きのソーサリアンを派遣して欲しいという要請だった。

 イリアスンには国軍も常駐しており、あまりソーサリアンの派遣は必要ではない都市だった。王はこの不自然な要請に異変を感じ取り、ソーサリアンイリアスンの調査を依頼した。

舞台

 設定資料の「第2章 ステージ構成」を参照してください。

登場人物

 ここでは主な登場人物の名前・年齢・性格・シナリオ中の役割などを記します。

ディアルド公爵(54)

 国から派遣されたイリアスンの執政官。赴任して2年になる。貴族ならではの高慢さはあるが、まじめな性格で国防の要イリアスンへの赴任を誇りに思っており、町の発展を心から願っている。

 今回精霊の波動である「喜びの歌」がイリアスンへ聞こえてきたのは、自分の政策で市民が喜びに満ちているからだ信じており、これを守ろうとする。

 この為、子供たちの誘拐事件が発生しても市民にはひた隠し、ソーサリアンに調査を依頼した。

チッタ(年齢不詳)

 2ヵ月前に孤児としてイリアスンの修養所にやってきた少年。今回の事件を傍観者のように見ており、不思議な言動を繰り返す。

 実はこの少年は巨人族の末裔で、少年の姿を借りて人間を知りにやってきたのだった。
 元々は神の一族であったタイタンの血を引いている為、年齢というものとはほとんど無関係、人でいう死や生をも彼にとっては棲む場所を変える事ぐらいの意味でしかないが、今回のシナリオではこれらの秘密は明かされない。

カズン(12)

 イリアスン修養所の生徒。魔法の授業ではまずまずの成績だが、それ以外の成績は悪く、コンプレックスを持っている。

ルイス(9)

 イリアスン修養所の特待生。特に魔法が得意だが、まだ幼い。よくカエルを操って遊んでいる。

セネリー(11)

 イリアスン修養所の生徒。ルイスのお姉さん的存在で、彼の面倒をよくみている。

ライネル(28)

 剣の指導者。剣は力だという理論の持ち主。その考え同様、筋肉隆々の体で大刀を扱う。これでも一応、騎士の位を持つ。

エス(30)

 剣の指導者。剣は技だという理論の持ち主。その考え同様、不必要な筋肉は落とし、レイビアを扱う。騎士の位を持つ。

ジャネット(32)

 魔法・自然科学担当教師。かつては「魔女っ子ジェニー」と呼ばれ町のアイドルだったらしい。魔法の腕は確かだが、教え方が今一つ。

カリー(67)

 倫理・人間・社会科学担当教師。温厚な神官である。子供たちのおじいちゃん的存在。

ドレイク(652)

 ハイ・エルフの言語教師。彼は暇つぶしにこの仕事をしているらしい。

ダニー(45)

 イリアスンのベテラン事務官。確実に仕事をこなすのが得意。

ドリー(20)

 新米の事務官。仕事を失敗するのが得意。

 他、子供たち、兵士たちなどが登場。

ストーリー(要約)

 ソーサリアンは城砦都市イリアスンに到着した。門には当直の兵士が2人立っている。

「君達が王都からの視察団かい? 何を視察するのか知らんが、随分風変わりな格好だねえ。」

 兵士たちはいぶかしがったが、執政官から手配書が回っていたらしく、門を通してくれた。

 この都市は町全体が一つの城になっている。高い城壁に囲まれた町は、生活区域、教育区域、政治・軍事区域という順で階層が作られており、3段目の政治・軍事区域は町を取り囲む城壁より高く、物見櫓から兵士が国境を常に監視している。

 ソーサリアンは町の執政官ディアルド公爵に会う前に、生活区域、教育区域を見て廻り、何か問題はないか探って見た。しかし、町は活気に溢れ、人々は喜びに満ちており、何も問題は無さそうだった。ただ、その喜びが少し病的なほどに感じたが・・・。

 ソーサリアンは政治区域の奥にあるディアルド公の執務室にやってきた。

「よく来てくれた、ソーサリアン。この町はどうだ?」

 ソーサリアンは町は活気に溢れていて、全く問題は見つからなかったと告げた。

「そうだろう。この町は今、喜びに満ちている。“喜びの歌”が流れてきたのは私の誇りだ。」

 “喜びの歌”とは2ヶ月ほど前からイリアスン上空に流れている旋律のことだという。教師でもあるこの町の魔法使いジャネットによると、この旋律は精霊が放つ正の波動で、人の心に喜びや気力をもたらす作用があるという。

「私の赴任してからの2年間の努力が、精霊を呼び込む結果をもたらしたのだと思う。・・・だから、君達を呼んだのだ。」

 ディアルド公によると、10日前からイリアスンの修養所で学ぶ子供の姿が消える事件が発生し、今までに3人の子供たちの行方が分からないのだと言う。3人とも成績優秀な生徒で、自ら失踪するとは思えない。ディアルド公はこの事件を直属の部下の事務官以外、隠しているのだと言う。

「それを公表したら町中に不安が広がることになる。人心の負の要素は、“喜びの歌”を相殺してしまうかも知れない。私は執政官としてそれだけは避けたいと思っているのだ。」

 教師や生徒には、優秀な者だけを抜き打ちで王都の魔法学院で研修させていると言っているようだ。ディアルド公のねらいはソーサリアンなら正規軍の兵士と違い、非公式に動ける上に都へ帰ってしまう為、町に噂も広がらない、というところにあるらしい。

 ソーサリアンは釈然としないながらも捜査を開始した。

 ソーサリアンは執政官の部屋を出て、まず政治・軍事区域を見て回った。特に変わった様子は無く、兵士や役人からはあまり有力な情報は得られないようだった。ただ、“喜びの歌”を聴きに物見の塔に登ったとき、見張りの兵士が最近よく眠くなると言っていたが・・・。

 次に、ソーサリアンは教育区域の様子を見に行った。
 生徒はみな明るく、国の為に勉強することが喜びであると言う。教師もそれに応えており、理想的な教育空間だった。
 そんな中で3人の子供の行動だけが気になった。

 一人はルイス。彼はまだ精神的に幼いようで、覚えたての魔法でカエルを操って遊んでいた。魔法の才能はある子の様なので、こういった遊びは見ていて危うさを感じる。ただ、いつもしっかり者のセネリーが見ているため、教師も安心らしい。
 カズンは少しひねくれた発言をしていた。人の喜びは大人が教えるものだけでなく、もっといろいろあるはずだ、と主張している。ある意味これはこの年頃の少年には正常な反抗で、どこか画一的なこの都市の住人の方が異常に感じるくらいだ。
 そしてカズンと仲の良いチッタ。カズンはチッタのことを親友と呼ぶが、チッタはカズンのことを先生と呼ぶ。おかしな関係だ。

 結局、初日は有力な成果が無いまま、生活区域の執政官が手配してくれた宿屋で宿泊することになった。

 次の日、また事件は起きた。教師によるとルイスが“研修”へ行ったという。ディアルド公を訪ねると、ソーサリアンの非を責めるばかりで埒が明かない。
 子供たちもあやしさを感じているようだ。特にセネリーは神官カリーのもとで泣きながらルイスは研修なんかじゃないと訴えていた。その証拠にルイスがいつも気に入って持っていた一対の豹柄のリボンの赤だけ置いて行っているからだという。
 ソーサリアンは参考の為、リボンを借りることにした。また、カズンは何故かカニに興味を持ったようで教師からカニの天敵や撃退方を聞こうとしている。

 情報を探しながら生活区域の端に行くと、道端でカエルが跳ねていた。驚いたことにルイスの赤いリボンと同じ柄の緑のリボンを首に巻いている。これはルイスからのSOS信号だと直感したソーサリアンはカエルの後を追った。しかし、カエルは排水溝の隙間から奥へ入ってしまった。子供なら入れるが大人では入れない隙間だ。

 町の住人によると、この町の地下には鍾乳洞があり、町の排水はそこに流しているのだと言う。しかし、洞窟への入り口は兵士に警備されており、通常は入ることはできない。この為ディアルド公に今までの経過を説明し、ようやく洞窟に入る許可をもらった。
 洞窟は下水が流れ込んでおり、ソーサリアンはその臭いに閉口した。また、ジャイアント・トードが巣くっており、それらを倒しながらの調査となった。

 洞窟の調査を続けていくと、洞窟の奥は沼ゴブリンの棲み家となっており、彼らなりの生活空間があることが分かった。しかし、その沼ゴブリンどもを倒していっても一向に子供たちの手がかりは見つからない。そんな中、倒した沼ゴブリンの部屋から記号の描かれた羊皮紙を見つけた。ソーサリアンはもしやと思い、言語教師ドレイクに羊皮紙を見せに戻った。ドレイクによるとこれは鬼族の絵文字で簡単なメモだと言う。内容は“家畜の部屋 3歩左”だった。

 ソーサリアンは再び沼ゴブリンの部屋に赴き、沼ゴブリン達が全ての基準にしている金の女神像から左を探ってみた。そしてそこに隠し扉があるのを発見する。ここから先が“家畜の部屋”であることは間違いない。ソーサリアンは先を急いだ。
 しばらく進むと緑のリボンをつけたカエルが待っていた。上を見ると小さな隙間から光が漏れていた。この上がどうやら排水溝らしい。カエルに導かれるまま、次の部屋に入ると・・・。
 そこには“家畜”ジャイアント・クラブがいた。巨大なハサミ持ち、毒の泡をぶくぶくと放出している。
 何とかこの怪物を退治し、ソーサリアンはその奥の部屋で、失踪した4人の子供たちを発見した。
 4人はみんな元気だった。ルイスはお礼に緑のリボンをくれた。彼らによると、夜呼び出されて外に行くと、眠りの呪文が聞こえて気付いたらここにいた、ということだった。そして呼び出した者の名は、カズン・・・。そう言えば魔法教師ジャネットは、カズンは眠りの魔法を熱心に勉強していたと言っていたが・・・。

 ソーサリアンは4人を当直の兵士たちに託し、カズンを探した。教室にはいない。物見やぐらに登ると見張りの兵士が眠っていた。『カズンの仕業だ』そう確信したソーサリアンは、塔に登った。そこには“喜びの歌”をうずくまってじっと聴いているカズンがいた。カズンはソーサリアンがルイスのリボンを持っていることで全てが分かったようだ。

「ぼ、僕は・・・はじめはみんなの勉強の邪魔をしたくてやったんだけど・・・ここに来ると何かどんどん力が湧いてきて、止められなくなっちゃったんだ。そしたら大きなカニが出てきてみんなを助けられなくなって・・・。」
 ソーサリアンは、慎重に歩を進める。しかし・・・。
「近寄らないで! ・・・自分で降りるよ・・・。」
 カズンは物見やぐらから静かに飛び降りた・・・。
 ソーサリアンは急いでやぐらの下へ階段を駆け下りた。しかしそこには、無傷のカズンが眠っており、傍らにはチッタがいた。
「カズンは僕の先生だからね。死んじゃ困るよ。人間は死ぬと喜んだり、悲しんだりできなくなるんだろう?」
 チッタはそう言い残して立ち去った。地面に、巨大な足跡を残して・・・。

 執政官に全ての報告を終え、ソーサリアンは帰路についていた。もうこの町に“喜びの歌”は流れていない。最後に事務官の若者が言った言葉が耳に残った。
「私達は喜びに満ちた理想の町を目指していました。“歌”が聞こえたときは本当に嬉しかった。だけど・・・その後はあまりいい事は無かったなあ。なぜだろう・・・。」

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